日本ラグビーのニューヒーロー・山田章仁の「想定以上の成長」
■「インパクトを残して盛り上げたい」目立ち、結果を残す異端児
人々の暮らしがやや鉛色になった感のある、2011年の日本。ラグビー界もやや沈んだ。秋、ニュージーランドでのワールドカップで、足掛け5年の長期政権を敷いたジョン・カーワンヘッドコーチ率いるジャパンは、1分け3敗に終わったのだ。
今後、日本ラグビー界はどうすべきか。大会を取材した記者たちは、焦りにも似たこんな質問を、代表入りしていないある選手にぶつけた。聞かれた本人は「期待されているのは分かっている」。こう即答した。
「髪型にも現れている通り、今まで以上のインパクトを残して盛り上げていきたいです。もちろんプレー面で」
その人は当時、茶と金がまばらに入ったスパイラルパーマの頭髪をしていた。所属クラブの本拠地である群馬県太田市の美容院で、2日かけて仕上げた。
山田章仁。1985年福岡県生まれ。真横に走る、飛ぶ、回るといった動きで慶応大在籍時から注目された。大学2、3年の頃は、夏合宿には参加しなかった。単独でのオーストラリア留学のためだ。
異国の地でのトライラッシュで存在感を示し、働き場をタッチライン際でトライを狙うウイングに固定した。身長は181センチ、体重は「オフは87〜88キロ、シーズン中は83〜84キロ」だ。
当時下部リーグ所属のホンダとプロ契約を結んだ2008年から、奇抜とされる頭髪でゲームに出続ける。自分が目立って活躍する。ラグビー人気に貢献する。その対価として金銭を受け取る。そのサイクルを貫くのだ。
■「ダントツでトライ王」宣言もここまで4トライのみ
2010年度、当時日本選手権3連覇中だった三洋電機に移籍(11年度よりパナソニックに名称変更)。身体を張らない選手は試合に出られないなど、勝者の文化が根付くクラブにあって、山田は本格的に台頭した。トライが取れること以上のこの人の魅力、つまりは知性を生かしたのだ。当時監督の飯島均によれば、「彼は頭が良い。ディフェンスをすればチームで良いことがあると自分で納得すれば、やるんです。それで周りから評価されれば、もっと意欲的になる」。結果、ずっと貼られていた「守備に難あり」とのレッテルを自力ではがし、攻めても日本最高峰のトップリーグで13トライ。リーグ上位4強による短期決戦のプレーオフでは、決定的な仕事をし続けMVPに輝いた。
ワールドカップには不出場も、現地で戦うジャパンの同じポジションの選手まで「山田待望論」を語った。国内に残った本人は、信頼する竹田和正パーソナルトレーナーと二人三脚で「新しい自分」をつくった。具体的には、より強くしなやかな身体の「バネ」を鍛えた。「トライ王を争う方はワールドカップなどで疲れもある。ダントツでトライ王を取らないと皆が納得しない。数は……20くらいですかね」。充実した気持ちで今季トップリーグに臨んだ。
が、第9節終了時点で記録したのは4トライのみだった。得点機での落球が目立った。「発言が自分を苦しめているのでは」。何人かのチームメートは気遣った。
■想定以上の成長が生んだプレーの誤差
「周りにはよくトライを取りたい気持ちが前に出ているんじゃ……とは言われます。確かに目標はトライ王だと言って、そのつもりでやっています。でも、ミスをした瞬間にそう思っているかというと違いますし。ただ単にスキル不足かなと思います」
12月27日、大田のクラブハウスで本人は語った。失敗の原因に、安易に精神論を持ち出さなかった。あくまで具体的に話した。
「余裕が出てきて、ボールをキャッチする時に去年よりも視野が広くなった。悪い風に捉えれば、ボールを見るのが曖昧になっている。良い風に捉えれば、あとはボールを見ることをトレーニングすれば今までよりもチャンスが増える、と」
シーズン前の鍛錬の結果、自分が思ったよりも高く飛べ、速く走れる。結果、「いろいろなものが見えるように」なった。度重なるミスはその弊害、と考えているようだった。
例えば12月10日、秩父宮ラグビー場であったNTTコムとの第6節。前半12分に敵陣深い位置でパスを受けるも、相手のタックルにより球を失った。その場面で本人は、「普通に走っているつもりでも、思ったよりスピードに乗っちゃっていた」と感じた。
「体感速度が時速10キロから11キロになっているとしたら、自分と相手と間合いがより近くなる。今までにない空間、距離感のなかにいるんです。あと、去年だったら自分で勝負していたのを、あそこでは余裕があって、パスすることとかも考えていた」
■「早く代表に入ってエディーさんのしてほしいことを知りたい」
開幕前に掲げた「断トツでトライ王」との目標は。
「厳しいですけど、不可能ではないかな。目標を言えなくなるとだめだと思うので」
年末、サントリー監督のエディー・ジョーンズが新たな日本代表ヘッドコーチに就任した。「日本代表には頭の良い選手が必要です」。かねてからそう訴える人だ。
知性をベースに据え、具体的かつ前向きな発想を持つ山田は、新指揮官とも学生時代から親交がある。「僕はボスには合わせられるタイプ。4年後のワールドカップで活躍したいので、1年でも早く代表に入ってエディーさんのしてほしいことを知りたい」。バージョンアップにより得られた新たな間合いに、自分の脳みそを適応させる。その延長線上で、巻き返しとジャパン入りを狙うのだ。
いつかのジャーナリストたちの潜在意識にある「新ヒーロー求む」の声に「プレー面」で応える。年明け早々、黒髪の短髪になった山田は、そんな2012年を過ごせるだろうか。
<了>
・トップリーグ日程一覧 (2012/1/8)




