sportsnavi.com
ジャンルタブ
  トップページ > その他 > 世界陸上2007大阪 > コラム一覧
世界陸上2007大阪 spon Yahoo!スポーツ
世界陸上2007大阪

コラム

「不振の要因」と「北京への成果」
日本代表の戦いを振り返る

2007年09月03日
折山淑美
次回09年ベルリン大会へ引き継がれた世界陸上大阪大会だが……
次回09年ベルリン大会へ引き継がれた世界陸上大阪大会だが……【 (C)Getty Images/AFLO 】

■日本勢不振の元凶を閉会式に見た !?

 9日間の大会の締めくくりともいえる閉会式。原稿を書きながら観ていたのだが、あまりにも“ショボい”フィナーレにがく然とした。一気に力が抜けてしまい、その先は1ミリたりとも原稿を進められない状態になってしまったというか……。
 午後9時半に始まった式は、選手団入場、各種セレモニーが当たり前のように進んだ。そして最後のメーンイベントだ、と思うと、和服姿の若干お年を召した女性方がソロソロと出てきて二つの輪をつくる。そこへ登場したのは河内家菊水丸。歌うのは当然、『河内音頭』だ。歌が始まり、シズシズと踊りだす女性たち。演出者が思い描いたのは、そこで海外の選手たちが喜んで一緒に踊りだす光景だったのだろう。だが狙いどおりに踊ってくれたのはほんのわずかな選手たち。大多数の選手は“OSAKAリズム”には乗れず、ゾロゾロと競技場の外へ出て出ていってしまう。ホスト役を果すべき日本選手も、何をしていいのか分からずぼう然と立ち尽くすしかない状態だ。そして1曲終わると、はい終了。これから盛り上がるものだとばかり思っていたこちらも、思わずぼう然としてしまう。

 16年前の東京大会の閉会式は、阿波踊りで盛り上がった。セレモニーが終了するとともに登場したのは、にぎやかな阿波踊りの一団。選手たちはそのリズムと見慣れない踊りに驚き、多くの選手が踊りだす。そして国も関係なく手をつないだ選手たちが、グラウンド内を所狭しと駆け回る、いつ終わるともしれない興奮の宴に。会場に残った観客もそんな選手たちの姿を、温かく、感動しながら、別れの時が来るまで見守っていたのだった。しかし今回は………。いくらこの後、選手たちのファイナルバンケットがあるといっても。もう少し観客とともに、大会のフィナーレの感動を味わってもいいのではないのだろうか。唯一の救いは、バックグラウンドミュージックさえ消えてしまったグラウンドを、最後まで残った観客への感謝を込めて、日本選手団が手を振りながらグルリと1周したことだった。
「こんなひどい閉会式だったら、やらない方がマシ。恥ずかし過ぎるよ。最後は『蛍の光』くらい聞いて、ホロリとさせて欲しいわよね」
 あるベテラン女性記者が憤慨した。
 こんな閉会式を目の当たりにすると、まさにこの“ショボさ”が、日本勢不振の元凶だったようにさえ思えて来るのだ。

■長距離勢が見せた「一日の長」

日本勢で唯一メダルを獲得した土佐をはじめ、長距離勢は暑さ対策の成果を見せた
日本勢で唯一メダルを獲得した土佐をはじめ、長距離勢は暑さ対策の成果を見せた【 Photo:築田純/アフロスポーツ 】

 この大会、日本勢の勝負の行方に大きく影響したのは、大会前から心配されていた猛暑だった。男子は、尾方剛(中国電力)が5位、大崎悟史(NTT西日本)6位、諏訪利成(日清食品)7位で、W杯団体優勝。女子も土佐礼子(三井住友海上)が3位で嶋原清子(セカンドウインドAC)が6位で、W杯団体3位という、このメンバー構成では妥当な成績を挙げたマラソン結果は、84年ロス五輪での失敗以来、マラソン界が取り組んでいた“暑さ対策”の経験を生かしたものだと言える。

 また、男子20キロで森岡紘一郎(順天堂大)が11位、女子20キロの川崎真裕美(海老澤製作所)が10位。50キロでも最後には失速し、役員のミスで途中棄権という散々な結果になってしまった山崎勇喜(長谷川体育施設)が38キロ手前までメダル争いに加わっただけでなく、明石顕(ALSOK)が16位、谷内雄亮(佐川急便)が17位になった競歩も、来年の北京へつながる大健闘と言える成績を残した。これもまた、91年から始めていた暑さ対策への取り組みの成果であり、今大会のための情報収集がうまくいった結果だった。

 だがその反面、日本勢の不調の象徴となったのが、400mハードル為末大(APF)の予選敗退であり、女子走り幅跳びの池田久美子(スズキ)、男子走り高跳びの醍醐直幸(富士通)、男子棒高跳び澤野大地(ニシスポーツ)の予選敗退。さらに極めつけは、男子200mの末續慎吾(ミズノ)の熱中症による二次予選敗退だった。為末の場合は、自分の状態が上がっていないことを承知しながらの苦しい戦いだった。そして池田も、踏み切りの技術を仕上げきれなかったという不安もあった。だが、醍醐と澤野は、ともに直前まで調子の良さに自信を持っていながらも、痙攣(けいれん)でジャンプすらできないという結果に。脚や背中どころか、舌まで痙攣してしまって、しゃべることさえできなくなったという末續は「もう、どうしようもありませんでした。自分の身体が言うことを聞かないような状態になって」というのだ。

「トラック&フィールドも、当然のように大阪の猛暑は意識し、水分を取ったり熱中症に注意するという対策はとったし、選手自身もそれを意識していました」と、日本選手団の高野進監督は言う。だがその積み重ねはというと、まだまだ厚みがなかったということだ。
「一度はメダル圏外へ落ちた土佐選手が、そこから3位に上がる粘りを見ていて、暑さ対策には一日の長があり、幾多の修羅場を経験してきた日本マラソンの伝統を強く感じました」(高野監督)というのが正直な感想だ。

■避けて通れぬ道 北京以降へ――揺るがない確信

日本勢は、多くのメダル獲得はならなかったが、成長を示した部分も確実に示していた
日本勢は、多くのメダル獲得はならなかったが、成長を示した部分も確実に示していた【 写真は共同 】

 ただ、大きな期待をされながら結果を出せなかった選手について言えば、今回は地元開催という特殊な事情も重なっていた。この大会を、日本で陸上競技自体をメジャーなスポーツにするチャンスであると意識するようになった彼らは、「自分たちがやらなければ」という気持ちになっていた。自らが世界と戦える位置まで来ていることを自覚していたからだ。ただ惜しむらくは、彼らがメダルを争える位置には近くなっていたが、確実にメダルを獲れるまでにはなっていなかったことだ。
 彼らの本心は、この世界陸上でメダル争いに加わる戦いを経験し、来年の北京ではメダルを狙えるまでになっていたいということだった。だが、マスメディアは「メダル候補」と取り上げる。そのプレッシャーと、05年世界陸上の後から長期間続いた自分への期待感が重なり、彼らはこれまでにない精神状態に追い込まれていたと言える。
「単なる暑さ対策だけでなく、その辺までわれわれが上手にケアしていれば、もっと戦えたかもしれない」と、高野監督も反省する。もしこの大会が大阪の開催ではなく海外での大会だったら、彼らは確実に実力を発揮できたはずだと思う。彼らのひたむきさ、競技に対しての純粋さが、今回だけは裏目に出てしまった。

 しかし、これは彼らが本物の強さを身につけるためにも通らなくてはいけない道だったのかもしれない。さらに、身体の状態だけではなく精神状態が人体の生理に大きく影響するという現実を目の当たりにしたことは、同じような猛暑が予想される来年の北京五輪へ向けての、貴重な経験になったともいえる。だが、大会をよく振り返って見れば、数々の成果もあった。男子400mハードルの成迫健児(ミズノ)は、準決勝で敗退したものの全体で6位の48秒44で走り、実質的には決勝進出レベルであることを確認できた。また、男子100m×4リレーは、予選、決勝とアジア新を連発。5位になった決勝で出した38秒03は世界歴代10位の記録。選手たちも夢の37秒台への手応えと、メダル争いに加われる自信を得た。特に末續は、自分で自分の身体をうまく動かせないような状態から、短期間で走れるように回復するという、貴重な経験もした。
 ほかにも自己新をマークしたり、この舞台で世界に恥じない結果を出そうと努力し、そのとおりの結果を出した選手もいる。彼らにとってその経験は、自分の競技感をワンランクアップさせるための大きなパワーになったはずだ。

 高野監督は「今は種を撒く時期」だという。この開催国枠で全種目にエントリーできる特権をフルに利用したのも、将来の花が咲く時を期待してだと。そう考えれば16年前の東京大会がそうだった。あの時から男子400mハードルや、男子短距離の世界への挑戦が始まった。そしてそれを観ている子どもたちだった末續などの世代の選手が、今や主力として日本陸上界を背負っている。
 この大会の本当の成果は、今ではなく、来年の北京以降の戦いにこそ表われてくるものだろう。それとともに、今回は失敗した選手たちも、北京では絶対に戦ってくれる。その確信は今でも揺るがない。

<了>

折山淑美/Toshimi Oriyama
1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

コラム・会見

コラム一覧

注目外国人選手「Quest For Gold」:『陸上競技マガジン』提供


スペーサー
スポーツナビ+
スペーサー
■陸上関連ブログ
帰ってきたブーブレンジャー制作記 帰ってきたブーブレンジャー制作記
TBS世界陸上スタッフがお届けする、情報とって出しブログ !!
金哲彦のLife Style Running 金哲彦のLife Style Running
ランニングやマラソンに関するニュースや情報をいち早く発信します
I Love Sports I Love Sports
NY在住スポーツライターの及川彩子が米国情報を中心にお伝えします
陸上競技ブログ(スポーツナビ) 陸上競技ブログ(スポーツナビ)
陸上競技に関するコメント、トラックバックを大募集!
世陸便り 世陸便り
ミズノ社員が大阪から現地リポート!
車いす陸上競技 洞ノ上浩太 車いす陸上競技 洞ノ上浩太
BLUETAGアスリート 洞ノ上浩太(車いす陸上競技)のブログ
ブログ検索
スペーサー
スポーツナビ+ スペーサー
スペーサー
世界陸上に関する、皆さんからのトラックバックを募集中!
トラックバックURL:
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/osaka2007/tb_ping/4
新着トラックバックRSS
  • 救われた誘導員〜美しき新たな出発
  • 世界陸上OSAKA(絵付き)
  • やはり、救済処置なし
  • しなやかさ
  • さらなる飛躍を、日本選手
  • トラックバック一覧を見る △
    スペーサー
    スポーツナビ+ スペーサー

    Copyright (c) 2012 Y's Sports Inc. All Rights Reserved.