コラム
及川彩子
スポーツナビ

フラナガン、“女の駆け引き”を制す
陸上・全米選手権<1日目>

2008年6月28日(土)
陸上の全米選手権 女子1万mで優勝したフラナガン(左)と、2位のガウチャー。両者とも代表切符を手にした
陸上の全米選手権 女子1万mで優勝したフラナガン(左)と、2位のガウチャー。両者とも代表切符を手にした【Getty Images/AFLO】

 北京五輪の代表選考会を兼ねた陸上の全米選手権が現地時間の27日、米国のオレゴン州ユージーンで開幕した。初日の今日は、女子1万mの決勝が行われ、5月のカージナル招待で30分34秒49の米国記録を樹立したシャレーン・フラナガンが、31分34秒81で初優勝を飾った。さらに、2位には昨年の世界選手権大阪大会(以下、世界陸上)・女子1万mで銅メダルを獲得したカラ・ガウチャーが31分37秒72で、3位にはガウチャーの練習パートナーのエイミー・ベグリーが自己ベストを14秒更新する31分43秒60で、北京五輪の参加標準記録A(以下、A標準/31分45秒00)を突破し、3名とも代表入りを果たした。

 そのほか、女子100mの予選、準決勝が行われ、今季好調の23歳、マーシェベット・フッカーが追い風3.4mながら10秒76の好タイムで通過した。世界陸上の銀メダリストのローリン・ウィリアムズは10秒86(+3.4m)、世界陸上で3冠を達成したアリソン・フェリックスは10秒98と、順当に明日の準決勝に進出した。

 男子棒高跳びでは、今月上旬に行われたプリフォウンテインクラシックで6m04の米国記録を樹立したブラッド・ウォーカーが5m60を1本目でクリアし、1位通過。男子砲丸投げは予選からハイレベルな戦いとなり、上位7選手が20mを突破した。世界陸上の金メダリストのリース・ホッファは1投目に20m99、同大会の銀メダリストのアダム・ネルソンも1投目で21m03を記録し、それぞれが予選を通過、明日の決勝に進んだ。

 男子400mハードルは、世界陸上のカロン・クレメントが49秒13、ヘルシンキ世界陸上の金メダリスト、バーション・ジャクソンが49秒63で通過するなど、29人中12人が50秒を切るハイレベルな戦いとなった。準決勝は明日28日、決勝は29日に行われる。

■フラナガンとガウチャー、世界の走りを魅せる

 女子1万mでは、米国選手も日本人選手に劣らない、し烈な“女の戦い”を繰り広げた。
 5000mと1万mの米国記録を持つフラナガンと世界陸上メダリストのガウチャーの2人が、ハイペースで飛ばすのか、それともラスト勝負に持ち込むのかに注目が集まったが、レースは「超」がつくほどのスローペースで開始。レースが動いたのは、4000m過ぎのことだった。
「勝つだけじゃなく、チャンピオンシップスタイルのレースがしたかった」とフラナガンがレース後に語ったように、4000mから急激にペースアップすると集団が大きくばらけて、フラナガン、ガウチャー、べグリーの3選手による争いとなった。

 5000mを16分10秒で通過した後、今レースでA標準の突破を狙うべグリーが果敢に先頭に立ち、後続に10秒以上の差をつけていく。しかし、標準記録の突破はかなり微妙な展開。練習パートナーのべグリーをサポートするため、残り3周でガウチャーが先頭に立つと、ペースは1周70秒まで上がった。
「チームメイトのエイミー(べグリー)がA標準を切っていなかったので、前に出るのは分かっていた。残り3周で私が前に出るからねと、エイミーには伝えてあった」
 そのペースアップにもフラナガンは冷静な表情で対応したが、べグリーはさすがにきつくなったのか若干、遅れ気味に。残り1周の鐘が鳴ると、フラナガンはガウチャーに並び、残り300mでスパート。フラナガンは最後の1周を67秒03、ラスト1000mを2分50秒で駆け抜け、31分34秒81で初優勝を果たした。

「一瞬、あきらめた」と話したガウチャーは、3秒差で2位。後半粘ったべグリーはA標準を1秒40上回り、練習パートナーのガウチャーとともに北京行きを決めた。「エイミーがタイムを切ったかどうか分からなかったので、聞くのがとっても怖かった。ずっと一緒に練習してきて、苦労も分かち合ってきたので、本当にうれしい。今夜のレースの主役はエイミーだと思う」と、ガウチャーはべグリーをたたえた。

 スローペースで始まったレースだったが、北京でのメダルを射程圏に入れているフラナガンとガウチャーが、世界レベルの走りで魅せ、満員のスタジアムを熱狂させた。フラナガンはこれまでスピードのあるフロントランナーとして知られていたが、駆け引きにはあまり強くなかった。だが、今レースでは、「速いだけではなく、レースに対応できる選手と言うことを証明したかった」と話すように、冷静かつしたたかな走りで世界3位の実績を持つガウチャーをラストの勝負で下した。
 また、フラナガンの母親で、マラソンの元世界記録保持者のシェリル・トゥリーウォージーは、「娘にはトラックでどこまで勝負できるか、究めてほしい。娘は精神的に強く、いい競技者。去年の大阪(世界陸上)では結果を出せなかったけれど、その経験があったから、今があると思う」とコメント。元競技者としての視点を交えつつ、愛娘の活躍を喜んだ。

 敗れたガウチャーも、世界陸上での経験を十分に生かした走りをみせた。世界陸上の後、「ラストの走りをワンランクアップしたい」と話していたガウチャーだが、今年の2月には室内の試合で1500mで優勝、6月のプリフォンテインの5000mでこれまでの自己ベストを約10秒更新する14分58秒を出すなど、「五輪でメダル獲得」という大きな目標に向かって、順調に準備を進めている。

 これまでアフリカの選手たちが圧倒的な強さを見せていた女子長距離種目だが、ガウチャーが世界陸上でメダルを獲得したことで、米国人選手にも「戦えない相手ではない」という気持ちが芽生え、それがレベル向上につながってきている。北京で日本の選手たちのライバルの一人になることは間違いないだろう。

以下、選手コメント。

■シャレーン・フラナガン 女子1万m 決勝1位
【北京五輪代表内定】

 代表になれてうれしい。今日は、チャンピオンシップスタイルの走りができて満足している。北京ではチームメイトとなるカラとメダル争いに加わりたい。5000mでも代表になりたい。

■カラ・ガウチャー 女子1万m 決勝2位
【北京五輪代表内定】

 オリンピアンになるのがずっと夢だった。大阪でメダルをとったよりもうれしい。ユージーンはホームグラウンドのようなものなので、今日は、勝ちたかった。(全米などの大きな大会で)勝利には本当に縁がない。苦楽を共にしてきた練習パートナーのエイミーと一緒に北京にいけるのも本当にうれしい。

■マーシェベット・フッカー 女子100m 2次予選1位

 スタートで出遅れたので、体を立て直すように心がけた。(タイムは良かったけれど)でも、これはまだ2次予選。あと2本ある。

■ローリン・ウィリアムズ 女子100m 2次予選4位

 明日が楽しみ。今日の1次予選、2次予選を問題なく終えられてほっとしている。決勝に行く8人はとても速いメンバーになると思う。マイアミでいつも練習しているので、明日はもっと暑くなると自分に有利になると思うんだけど(笑)

■カロン・クレメント 男子400mハードル 予選5位

 予選から1位通過するのが目標だったけど、思うようにはいかないね。でも、大切なのは準決勝、決勝だから。決勝では、スペシャルシューズを履く予定。

■アダム・ネルソン 男子砲丸投げ 予選1位

 観客の応援が力になった。今日は早く試合を決めようと思っていた。標準記録を上回る投てきを1投目でできたので、満足している。明日はいい試合になると思う。

■リース・ホッファ 男子砲丸投げ 予選2位

 今日は予定通り。明日が本当の仕事で、戦いだ。(室内では調子を崩していたが)休まずに練習を続け、不調から脱することができた。安定感が出てきたので、もう大丈夫。明日が楽しみだ。

及川彩子

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/usako-chan/

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