コラム  
山田隆道
スポーツナビ

アラフォールーキー・石井琢朗の引き際の美学
山田隆道のブログに茶々々! 第15回

2009年4月28日(火)

■現役にこだわる単身赴任の名球会プレーヤー

石井琢朗オフィシャルブログ「琢朗主義」
石井琢朗オフィシャルブログ「琢朗主義」【スポーツナビ】

 一般的に名選手の引き際は二種類あるといわれている。一つはまだ余力を残しているのに、自分が納得できるパフォーマンスができなくなったと潔く「辞める」タイプ、もう一つはボロボロになるまで現役にしがみつき、周囲から半ば強制的に「辞めさせられる」タイプである。
 僕は石井琢朗という選手は後者を選んだと思っていた。
 石井といえば1988年に投手として当時の横浜大洋ホエールズに入団すると、4年目に野手転向。以後、持ち前の俊足巧打を生かした不動のトップバッターとして90年代以降の横浜を支え、昨年まで実働20年で通算2307安打を記録している超一流プレーヤーである。
 そんな石井も昨年オフ、ことしで39歳という年齢からくる衰えなどを理由に横浜から戦力外通告を受けた。普通なら、そこで引退だろう。あれだけの名選手だ。球団も華やかな引退セレモニーを用意し、指導者への道も保証していたはずだ。
 ところが、石井は現役にこだわった。名球会プレーヤーが年俸2000万円(推定)で広島に移籍し、2人の愛娘と離れ離れになる単身赴任を選んだ。やはり、石井の引き際の美学はボロボロになるまで現役にしがみつく、泥臭いタイプだったということなのか。

■新しい現役生活の晩年の形に悲壮感はなし

 しかし、石井のブログを見て、僕のイメージは一変した。
 なぜなら、広島に移籍した石井のブログは、とてもプロ21年目の大ベテランとは思えないほど、初々しいのだ。石井は自らを“アラフォールーキー”と呼び、新しい環境で新しいユニホームに袖を通した様子、新たなチームメートたちとの触れ合い、新本拠地のマツダスタジアムの様子など、とにかく新鮮な毎日を楽しそうにつづっており、随所にアラフォールーキーのときめきが感じられる。
 石井ブログを見ていると、彼がいかに過去の栄光を捨て、1からスタートしているかがよく分かる。慣れない二塁の練習をしたり、同じ名球会選手でもある前田智徳とチームメートになったことで「僕にとっては前田様。まさに生きた教材です」と素直に感動し、前田の意外なゴルフ好きやお笑い好き(特に『レッドカーペット』好き)など孤高の天才の意外な一面を楽しそうに紹介。こういうのって、若い選手じゃなかなかできないはず。石井ぐらいの名選手じゃないと、あの天才・前田のことを面白おかしくいじれないだろう。
 とにかく、広島に移籍した石井には「ボロボロの晩年」にありがちな悲壮感や負のオーラがまったくない。あるのはアラフォールーキーとしての初々しさと新しいユニホームで野球ができる喜び。つまりは陽のオーラである。
 石井の引退がいつになるのかは分からないが、彼の楽しそうな笑顔を見ていると引き際の美学を「潔さ」と「ボロボロ」といった単純な二元論で語るのはナンセンスだ。彼の毎日はまるで真昼の太陽のように明るく、それはなにげにプロ野球選手の新しい現役生活の晩年の形なんじゃないかと、僕は思った。

<了>

山田隆道

作家。大阪府出身。早稲田大学卒業。主な著書は「雑草女に敵なし!」「Simple Heart」「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「野球バカは実はクレバー」など。大のプロ野球ファンとしても知られており、様々なプロ野球関連メディアにも出演や寄稿を行っている。MBSラジオ「亀山つとむのかめ友SPORTS Man Day」や「MBSとらぐみタイガーズライブ」などにコメンテーターとしてレギュラー出演中。ツイッターアカウントは【@yamadatakamichi】
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