ダルビッシュや青木ら主力移籍の影響は? (2/2)
達川光男氏が語るプロ野球2012年シーズン
■匠の技を持っていた北別府氏
さて、ここからは北別府と津田の殿堂入りの話をさせて下さい。殿堂と言えば、野球人にとっては最高の栄誉です。それを、私がキャッチャーとして受けていた2人のピッチャーが受賞したんですから、本当にうれしいニュースですよ。
今の若い方は、もしかしたら北別府学のことをあまり知らないかもしれませんが、彼は本当にコントロールのいいピッチャーでした。私が受けたピッチャーの中でも一番でしたよ。よくボールの出し入れということを言いますけど、彼はボール1個分とか半個分とかでさえなく、それこそ縫い目1つ、半紙1枚ぐらいのボールの出し入れをできるようなピッチャーでした。いや、ホントですよ。
思い出深いのは、あるキャンプでの一日です。その日、北別府はものすごく調子が良かった。あまりに調子がいいものだから、ちょっと余興をやったんですよ。ホームベースの上に空き缶を3つ並べて、その空き缶に向かって北別府は3つの球種を投げました。ストレートと、スライダーと、シュート。ボールは空き缶を全て倒していきました。空き缶なんて地面から20センチもあるかどうかですよ。そんなとんでもない低めに、3つの球種をコントロールする……これこそ匠の技ですよ。
当時テレビ番組にストラックアウトというコーナーがありまして、ストライクゾーンに9枚のパネルがあって、そのパネルにボールを投げて破っていくというゲームですね。皆さんもお馴染みだと思います。当然、北別府にもこのコーナーへのオファーが来ました。
彼はたちまち低めの3枚と真ん中の3枚をクリアして、もうパーフェクト間違いなしという雰囲気でした。でも、彼は9枚抜きはできなかったんですね。高めの3枚をクリアできなかった。高めに投げちゃいけない、投げられないという、北別府学だからこその理由でしたよ。その後パーフェクトを達成したそうですけど、それも彼の適応能力のすごさかもしれませんね。
彼の生涯成績は213勝141敗。でも、彼は私のあるプレーのせいで勝ち星を1つ損しているんです。それはこういう状況でした。阪神戦、1点リードの終盤で1アウト満塁。打席はかの三冠王、ランディ・バースでした。でも、打ち取ったんです。ピッチャーゴロで1−2−3のゲッツー。そう思ったんですが、私が一塁じゃなくてライトに悪送球してしまって、2人がホームイン。逆転負けしてしまったんですよ。今でも私は、そのプレーの夢を見ることがあります。だけど、この北別府の殿堂入りで、これからは悪夢を見なくてもいいように思います。
■元メジャーリーガーも舌を巻いた津田氏のストレート
津田の話もさせて下さい。炎のストッパーと呼ばれ、150キロを超える剛球で強打者たちを抑え込んでいった津田。1993年、惜しくも、本当に惜しくも32歳でこの世を去った津田です。私は彼の話をすると、今でも涙が出ます。
彼のストレートは、本当に手間暇かけてつくられた、彼の努力の結晶でした。私が一緒にやってきた選手の中でも、彼ほど努力する選手を見たことがありません。
津田は抑えに失敗すると、当時の広島市民球場に2時間も早く来て、外野の階段を走って回ってました。観客席に向かって、ごめんなさいという気持ちを込めてたんでしょうね。それで、何食わぬ顔で全体練習に加わってました。
ある時、彼は私にこう言いました。あるピッチャーの初勝利の権利を、彼が打たれたことで消してしまった時です。「達川さん、抑えってつらいですね」と。普段の私なら少し茶化したことを言ったりもするかもしれませんけど、その時の私は黙ってうなずき、「お前しかおらんぞ」と言いました。「今日も試合があるぞ」と。ボールは大胆、心は繊細。それが津田でした。
先ほども登場した、かのランディ・バースも津田はストレートでねじ伏せました。真ん中高めのストレートで3球三振した時、バースは「クレージーボール(とんでもないボールだ!)」と叫んでましたよ。バリバリのメジャーリーガーで巨人にやって来たレジー・スミスも舌を巻いておりました。
恐らくあの時の津田なら、ストレート一本でもメジャーで通用したんじゃないか……そんな風に私は思います。彼の殿堂入り、本当にうれしかったです。
さて、来月はいよいよ春季キャンプですね。私も宮崎と沖縄でキャンプ取材をして参ります。次回はキャンプ情報をたっぷりお届けしましょう。お楽しみに!
<了>
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達川光男1955年7月13日生まれ。1977年のドラフト4位で広島カープに入団。頭脳的なリードに定評があり、広島の正捕手として長く活躍した。1992年に現役を引退。1999年から2000年までは広島で監督を務めた。軽妙な語り口でも知られ、現在はプロ野球解説者として活躍中。 |


