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明暗を分けたそれぞれの表情
第103回ワールドシリーズを振り返る

2007年10月29日
出村義和

ワールドシリーズ第4戦の9回、ロッキーズの代打スミス(中央)を空振り三振に仕留め、チャンピオンに輝いた喜びを爆発させるレッドソックスの守護神パペルボン(左)

ワールドシリーズ第4戦の9回、ロッキーズの代打スミス(中央)を空振り三振に仕留め、チャンピオンに輝いた喜びを爆発させるレッドソックスの守護神パペルボン(左) 【 (C)Getty Images/AFLO 】

歴然としていた実力の差

 ジョナサン・パペルボンは一体どの位の高さまでグラブを放り上げたのだろうか。歓喜の大爆発。代打セス・スミスのバットが空を切り、レッドソックスの3年ぶり7回目のワールドシリーズ制覇が決まった瞬間のことだ。そのグラブが落下してくるまでに、バネ仕掛けの人形のようにベンチから飛び出した選手たちとの世界一の輪ができようとしていた。

 4戦スイープ。第4戦を含めて、1点差試合は2試合あったが、ロッキーズとの実力の差は歴然としていた。

 「戦う前はロッキーズに勢いがあるだろうと思っていた」と、第3戦で日本人投手として初のワールドシリーズ勝利投手になった松坂大輔は言った。「それをベケットとシリングが止めたのかな。でも、単純にボストンが強いチームだったのではないかと思う」

 ワールドシリーズに入る前の22試合で21勝1敗。球史に残る快進撃を続けてきたロッキーズの勢いは止まったどころか、勝負はあっけなかった。松坂が語るまでもなく、レッドソックスは強かった。圧倒的に強かったのだ。


初戦を圧倒したベケット

 それは第1戦の初回の攻防から表れていた。レッドソックスのマウンドに立ったジョシュ・ベケットは、まるで仁王立ち。いきなり3者連続三振だ。それも、3番マット・ホリデーに1球だけカーブを投じた以外はすべてストレート。まるで、その実力を誇示するかのような力感溢れた投球は、ナショナルリーグ優勝決定シリーズ第4戦を最後に8日間も実戦から遠ざかっていたロッキーズでは、とても太刀打ちできるものではなかった。

 その裏、レッドソックスは1番に入ったダスティン・ペドロイアが175センチほどの小柄な体をぶつけるような独特の打撃で、相手エースのジェフ・フランシスから左中間に新人としては史上初となる先頭打者本塁打で先制。さらに、ケビン・ユーキリスが右中間への二塁打で続くなど、初回に2点を追加。その後も、シリーズのタイ記録となる8二塁打などの猛打で13−1と大勝。


ポイントとなった第2戦の岡島、第3戦の1、2番

 第2戦のハイライトは、シリーズMVPに輝いたマイク・ローウェルの好走塁と、決勝タイムリー。そして、日本人投手として初のシリーズ登板となった岡島秀樹の見事な火消しぶりだった。レッドソックス2−1のリードで迎えた6回表。1死一、二塁の場面で出番となった岡島は、ギャレット・アトキンスをファーストゴロ、ブラッド・ハウプを空振り三振に切って取り、ロッキーズに傾きかけたシリーズの流れを引き戻したのである。

 「岡島は完ぺきだった。投げたボール全てが完ぺきだった」と、先発したカート・シリングが絶賛するほど、変化球の切れ、制球ともベストと思えるものだった。結局、岡島は2回1/3を投げ、一人の走者も許さなかったばかりか、4三振を奪ったのである。

 岡島は、舞台をコロラドに移した第3戦、第4戦ともマウンドに上がった。そして、いずれの登板でも本塁打を打たれはしたが、リードを保ったまま、パベルボンにバトンを渡した。第3戦が終わった後、クラブハウスで彼は笑みを浮かべながら言った。「ホームランを打たれた後でも、すぐに気持ちを切り替えることができるのは、経験じゃなくて僕の性格でしょ」

 その第3戦は1、2番を任されたジェイコビー・エルスブリーとペドロイアの新人コンビのためにあったような試合だった。2人合わせて7安打。DHを使えないナ・リーグ仕様のラインアップはズバリと的中し、10−5で王手をかけたのだった。


明暗を分けた元チームメイト

 一方のロッキーズでシリーズを通して気を吐いたのは、松井稼頭央だ。3戦目からは1番に入り、ドラッグバントを決め、盗塁を成功させ、クリーンヒットも打った。

 「悔しいですね」とすべてが終わった後に言った。クラブハウスに戻って30分は経過しているはずなのに、彼の目はまだ戦っているように感じられた。

 シャンパンシャワーに酔いしれるレッドソックスのクラブハウスでは、松坂が優勝トロフィーを抱えていた。

 「重いですね」と言いながら笑顔がはじけている。「1回じゃなく、これは1回目。始まりなんです」

 史上初めて実現した日本人対決のあるワールドシリーズは、いつものように10月の明暗を容赦なく分けて幕を閉じた。

<了>

出村義和/Yoshikazu Demura

スポーツジャーナリスト。現在、メジャーリーガー30人のチャレンジ・スピリットを綴った書き下ろしノンフィクション短編集『メジャーリーガーズ』(小学館文庫)を好評発売中。メジャー本といえば、これまでガイド的なものや、人物やシステムの紹介といったものに限定されていたが、この本はこれまでにはなかったアプローチでメジャーリーガーに迫り、彼らの生き方まで引き出している興味深い一冊

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