コラム
田尻賢誉
スポーツナビ

智弁和歌山・坂口、“本物”の証明
タジケンの高校野球観戦記 Vol.13

2008年8月14日(木)

■史上初の1イニング2本塁打

大会史上初の1イニング2本塁打を放った坂口。その打棒は、準々決勝以降でも爆発しそうだ
大会史上初の1イニング2本塁打を放った坂口。その打棒は、準々決勝以降でも爆発しそうだ【写真は共同】

 打ってほしいときに打つ。誰もが期待する場面で結果を残す選手こそ、本物のスターだ。
 2対3とリードされて迎えた8回、智弁和歌山高の攻撃。無死一、二塁で打席に入ったのは、四番の坂口真規だった。初球の真ん中高めストレートをとらえると、打球はバックスクリーン左へ向かって一直線。打った瞬間それとわかる逆転3ランだった。
「前の打席まで右方向を狙いすぎて打てなかったので(二塁ゴロ、レフトフライ、ライトフライ)、何も考えずに振ろうと思いました。自分がエラーして点を取られたので、なんとしてもランナーを返そうという気持ちでした。来たボールを素直に打とうと思った結果です」(坂口)
 本人の言うエラーとは、1点をリードした6回2死無走者からの三塁ゴロで、サードの西川遥輝が一塁へワンバウンド送球したのを捕り損ねたもの。それをきっかけに3連打で逆転を許した。記録は西川のエラーになったが、坂口は1年生のミスをカバーできなかったことを悔やんでいた。だが、それを帳消しにしてあまりある一発であった。
 背番号10のエース・岡田俊哉が先発せず、捕手は予選を通じてこの夏初出場となる2年生の平野晃士。「僕がキャッチャーという時点で、みんな勝てるという感じで(駒大岩見沢高を)なめてたと思います。グタグタでしたね」(平野)。気の緩みからか、1、2回戦で合計31安打を放った打線が、7回までわずか6安打1点。このまま終わってしまうのではないかという重苦しい雰囲気を一掃する価値ある本塁打だった。
 これで火がついた打線は相手のミスもあり、打者一巡以上の猛攻。坂口は再び回ってきた打席で、今度は2球目の真ん中低めスライダーをとらえてレフトスタンド中段へ。ホームランバッターらしい滞空時間の長い一発で、90回の歴史で史上初となる1イニング2本塁打を記録した。
「(ポール際で)切れるかなと思ったんですけど……。たまたまなので、次の試合も大事にいきたいです」(坂口)

■2本の本塁打が持つ2つの意味

 チームのムードを変え、球場の雰囲気を変え、歴史を変えた2本塁打は、坂口にとって2つの大きな意味がある。1つは、大舞台での強さを証明したこと。センバツでは、“大会ナンバーワンスラッガー”の称号が重圧になり、結果を出せなかった。サードを守った宇治山田商高戦では、平凡な三塁ゴロをトンネル。「甲子園の雰囲気にのまれてました」(坂口)。
 ところが、この日は守備でも好プレーを見せた。1点を先制された2回。なおも1死一、三塁とピンチの場面で一、二塁間のゴロを逆シングルで好捕。素早く二塁へ送球して併殺を完成させた。二塁ベースカバーに入ったショートの浦田勇輝が、「勝谷(直紀・セカンド)とか、他のヤツだったらわかりますけど、まさかアイツが捕って送球が来るとは思わなかった」と驚いたほどのプレー。守備で相手の流れを止めることに成功した。
「あれは自分でもびっくりしました(笑)甲子園の雰囲気がああいうプレーをさせてくれるんだと思います。春とは違って、自分の間合いでできています」(坂口)

 もうひとつは、ケガに強い選手であることを証明したこと。6月中旬に右足のくるぶし下を疲労骨折。今も右足はテーピングで固めた状態だが、それでも結果を出した。プロの世界でもチャンスをもらうたびにケガをしたり、活躍し始めた途端にケガをしたりと故障につきまとわれる選手がいる。そういう選手は、たいていが野球人生の間ずっとケガにつきまとわれ、「ケガさえなければ……」と言われたまま終わってしまうものだ。そういう意味でも、ケガに強いというのは野球選手の必要条件。いい選手ほどケガに強い。
 もちろん、坂口自身にも不安はあった。大会前の練習ではテーピングなしでの打撃を試したが、軸足である右足がぐらついて不安定になるので、テーピングをしての出場を選んだ。1、2回戦ではガチガチに固めて出たが、「締めすぎると逆に力が入る」(坂口)ため、軽めのテーピングへと微調整しての駒大岩見沢高戦だった。「それがよかったんだと思います」(坂口)。
 練習会場では、テーピングを巻いてもらう坂口の姿を撮影しようとテレビカメラが寄ってくる。そのたびに、「すみませんけど、撮らないでもらえますか」とお願いしている。弱みを見せたくないという思いと同時に、その映像が流れ、同情を誘うことなど望んではいないからだ。
「打てないとケガのせいにするとか、そういうのホンマ嫌いなんですよ。いつも『痛み止め打った?』とかいろいろ聞かれるんですけど、本当はケガのことは聞かれたくないんです」
 坂口にとって、試合に出ている以上はそれがベスト。ケガはしていないものと思っている。あとからでも言い訳になるようなことは言いたくない。それがポリシーだ。
 どんな条件、状況であれ、結果を出す選手こそ本物。“本物”であることを証明した坂口が、真の夏の主役に躍り出た。

<了>

田尻賢誉

 1975年神戸市生まれ。小学校6年から中学2年までを札幌で過ごす。学習院大学卒業後、ラジオ日本勤務を経て独立。スポーツライターとして高校野球、プロ野球、メジャーリーグなど幅広い取材、執筆活動を行っている。著書に『あきらめない限り、夢は続く』(講談社)、『公立魂〜鷲宮高校野球部の挑戦〜』(日刊スポーツ出版社)など。『スポルティーバ』(集英社)、『ホームラン』(廣済堂出版)、『輝け甲子園の星』(日刊スポーツ出版社)、『ベースボールクリニック』(ベースボール・マガジン社)、『スラッガ』(日本スポーツ企画出版社)などに寄稿している。 2009年7月1日には日刊スポーツ出版社から『沖縄力』が出版される。

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日程・結果
【 第17日 】 8月18日(決勝)
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第1試合関東一 1−3 浦添商
第2試合 青森山田 0−2 慶応
第3試合 東邦 5−7 大阪桐蔭
第4試合 横浜 3−2 仙台育英
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第1試合聖光学院 5−2 市岐阜商
第2試合 常葉菊川 11−9 倉敷商
第3試合 駒大岩見沢 3−15 智弁和歌山
第4試合 鹿児島実 3−7 報徳学園
【 第11日 】 8月12日(2回戦)
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第1試合大阪桐蔭 6−5 金沢
第2試合 広陵 4−7 横浜
第3試合 仙台育英 6−4 福井商
【 第10日 】 8月11日(2回戦)
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第1試合本庄一 0−4 青森山田
第2試合 慶応 5−0 高岡商
第3試合 清峰 4−5 東邦
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第1試合鹿児島実 4−1 宮崎商
第2試合 智弁学園 4−5 報徳学園
第3試合 関東一 5−2 鳴門工
第4試合 浦添商 12−9 千葉経大付
【 第8日 】 8月9日(2回戦)
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第1試合福知山成美 1−2 常葉菊川
第2試合 佐賀商 0−2 倉敷商
第3試合 盛岡大付 3−8 駒大岩見沢
第4試合 智弁和歌山 5−2 木更津総合
【 第7日 】 8月8日(1回戦・2回戦)
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第1試合菰野 1−4 仙台育英
第2試合 福井商 6−1 酒田南
第3試合 聖光学院 9−2 加古川北
第4試合 市岐阜商 4−3 香川西
【 第6日 】 8月7日(1回戦)
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第1試合大阪桐蔭 16−2 日田林工
第2試合 桐生一 1−6 金沢
第3試合 広陵 8−5 高知
第4試合 浦和学院 5−6 横浜
【 第5日 】 8月6日(1回戦)
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第1試合白鴎大足利 3−11 清峰
第2試合 東邦 15−10 北海
第3試合 大阪桐蔭 中止 日田林工
【 第4日 】 8月5日(1回戦)
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第1試合本庄一 5−4 開星
第2試合 青森山田 2−1 日本航空
第3試合 慶応 6−4 松商学園
第4試合 大府 1−5 高岡商
【 第3日 】 8月4日(1回戦)
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第1試合常総学院 5−13 関東一
第2試合 本荘 3−4 鳴門工
第3試合 浦添商 7−0 飯塚
第4試合 千葉経大付 3−1 近大付
【 第2日 】 8月3日(1回戦)
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第1試合日大鶴ケ丘 1−14 鹿児島実
第2試合 城北 1−7 宮崎商
第3試合 智弁学園 5−4 近江
第4試合 新潟県央工 2−4 報徳学園
【 第1日 】 8月2日(1回戦)
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第1試合 駒大岩見沢 8−6 下関工
第2試合 済美 0−3 智弁和歌山
第3試合 鳥取西 1−6 木更津総合

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