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第89回全国高校野球選手権大会 Yahoo! スポーツ

コラム

ミラクル佐賀北を優勝に導いた心技体(1/2)
タジケン甲子園見聞録 Vol.15

2007年08月23日
(田尻賢誉)

松山商高以来、公立校では11年ぶりの甲子園制覇を成し遂げた佐賀北高。エースの久保らのタフさと集中力が光った
松山商高以来、公立校では11年ぶりの甲子園制覇を成し遂げた佐賀北高。エースの久保らのタフさと集中力が光った【 写真は共同 】

浮つくことなく最後を締めた佐賀北

 最後まで冷静さを失っていなかった。満塁本塁打が出ても、優勝まであとアウト3つに迫っても。
 
 佐賀北高の9回表無死一塁での守り。広陵高・岡田淳希の送りバントは一塁前に転がった。一塁手の辻尭人はダッシュしてこの打球をつかむと、一塁に送球せず、打者走者にタッチしに行った。
「(走者が三塁に)行くとは思いませんでした。でも、(送球すれば)一塁ベースまで(ボールが)行く間に(三塁に)行かれるかも知れない。タッチの方がいいと思いました」
 バントと同時に好スタートを切っていた一塁走者の林竜希は、三塁ベースが空いているのを見て、ノンストップで三塁へ。一瞬気づくのが遅れた辻だったが、慌てて三塁ベースに戻った副島浩史に冷静に送球。間一髪で林を刺した。
「タッチして終わりじゃない。次のプレー(が大事)だと意識していました。甲子園でも、日ごろの練習でやっていることを出すだけ。落ち着いて投げられました」

守備でも魅せた、殊勲のヒーロー副島

 逆転満塁本塁打の副島は打撃だけでなく、守備でも光った。4回1死三塁で小林誠司の痛烈なゴロを体で止めた後、落ち着いて一塁に送球してアウトにした。正面より、やや右寄りの打球。実は右寄り、三塁線の打球は副島の得意とするコースだった。
 副島の守備時の構えは独特だ。左足を一歩、大きく前に出して構える。本塁に正対するというよりは、ややファウルグラウンドを向く感じだ。これには、もちろん理由がある。
「春ぐらいですかね。(エースの)久保(貴大)に『三塁線を抜かれるのは嫌だ』って言われたんです。それで、三塁線を抜かれないようにするにはどうしたらいいか考えたら、ああなりました。最初は冗談気味でやってみたんですけど、バント処理の前の打球にも対応しやすい。あの構えにして三遊間の守備範囲は狭くなりましたけど、三塁線と前の打球には強くなりましたね」
 これに関して、百崎敏克監督はまったく口を挟んでいない。あくまで、自分で考えた結果。強制的ではなく、自主的に取り組んだことだからこそ野球の神様も味方し、冷静にあの打球を処理できたのかもしれない。

 副島は2回の守備でも冷静さを見せている。スクイズ空振りで三塁走者を三本間に挟んだ挟殺プレー中、その間に三塁に到達しようとした二塁走者にタッチに行った。惜しくもセーフにはなったが、あわや2人の走者ともアウトにしようかというプレー。昨春、横浜高の高濱卓也が八重山商工高戦でそのプレーを披露したが、佐賀・城南中のチームメイトだった副島も同じプレーができる冷静さを持ち合わせていた。

優勝校にふさわしい精神力と冷静さ

 そして、優勝投手となった久保。甲子園7試合目の登板となったこの日も、外角低めに集める投球を徹底した。3回から6回まで毎回二塁打を浴びながらも、最後の1本は許さない。7回には2点を失い、自らの連続無失点記録は34回で途絶えたものの、その後の得点を許さなかった。荒木大輔(早稲田実高=1980年夏、44回1/3連続無失点)も上田佳範(松商学園高=91年春、35回連続無失点)も決勝戦で無失点記録がストップした後に失点を重ねて準優勝に終わったが、久保は気持ちを切らさず、2点で踏みとどまった。
「とにかく外に投げるだけ。点は取られても、最少失点に抑えればいい」
 大会中、ずっとそう言い続けてきた。優勝を決めた最後の1球が外角スライダーだったところに、久保らしさが表れている。最後まで色気は見せなかった。

 選手だけではない。ベンチの百崎監督も冷静だった。5回2死一、二塁で打席に岡田淳を迎えた場面では、もともと前寄りに守っていた外野手に、さらに前に来るよう指示。直後にレフト前安打が出たが、本塁生還を許さなかった。6回1死一、三塁では、内野に前進守備を指示する一方で、ショートの井手和馬には後ろに守るよう指示。捕手の送球をショートが落球してセーフにはなったが、フリーパスになりがちな一、三塁での二塁盗塁を阻止する準備を整えていた。

 無理なことはやらない。だが、できることだけはしっかり確実にやる。変に色気を出さず、能力の範囲でできることを徹底した結果が、冷静さを保てた最大の要因。広陵高の13残塁が示すように、大量失点の可能性があった試合で粘り、最後の最後に巡ってきたワンチャンスを生かせたのは、終始一貫してこの“佐賀北スタイル”を崩さなかったから。延長15回引き分け再試合を含む7試合を戦い抜いた体力面もさることながら、最後まで芯(しん)のぶれないタフな精神力と周りを見る冷静さは優勝校にふさわしいものだった。

<続く>


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