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第88回全国高校野球選手権大会 Yahoo! スポーツ

コラム  

難攻不落! 夏一番の怪物だった斎藤
高校野球ライターの甲子園観戦記最終回

2006年08月22日
田尻賢誉

クセを修正できる能力と感情を出さないクールな姿

駒大苫小牧を破り初優勝、ガッツポーズの早実・斎藤投手=甲子園
駒大苫小牧を破り初優勝、ガッツポーズの早実・斎藤投手=甲子園【 共同 】

 実は、早稲田実高の優勝はないと思っていた。
 なぜなら、斎藤佑樹にはクセがあったからだ。セットポジションの際、ストレートを投げるときと変化球を投げるときで、セットするグラブの位置の高さが違ったのだ。西東京大会では大会を通じてずっと、甲子園でも1回戦の鶴崎工高戦まではそれが出ていた。
 ところが、3回戦の福井商高戦のころにはそのクセが消えていた。自分のフォームをビデオで確認したのか、第3者からのアドバイスがあったのか、それは分からない。だが、簡単に修正できてしまう能力、切羽詰まったときにもそのクセを出さない対応能力には驚かされた。このクセがなくなった時点で、斎藤攻略の糸口はなくなったといっていい。

 そして、連投に耐える姿。今の時代、苦しいことをしていると「オレは頑張っている」「オレは大変なんだ」と言葉や態度で示そうとする子が多いが、斎藤からはそんな言動が一切見られなかった。3連投しても、15回を投げ切っても、4連投しても涼しい顔をしている。マウンドで見せるのは、すっかりおなじみになった青色のタオルで汗をふく姿ぐらい。苦しい顔も、疲れている表情も見せない。
「コイツは疲れるということを知らないのだろうか」
 相手にそう思わせるだけで、どれだけプラスになっていることか。
 実は、これも修正能力のたまものだ。捕手の白川英聖が「あいつほど感情を出すやつはいなかったんですよ」と言うように、以前の斎藤はマウンドで気持ちを出すタイプだった。打たれれば血が上ってさらに速球で勝負にいく。そのせいで昨夏の西東京大会では準決勝の日大三高戦で田中洋平、大越遼介に本塁打を浴びKO。7回コールド負けを食らっている。苦い経験に加え、OBに「投手がマウンドで感情を出して何かいいことでもあるのか」と言われたこともあり、現在の感情を出さないクールなスタイルに変更した。

松坂の無安打無得点に匹敵する大歓声

 疲れているだろう。誰もがそう思う場面で驚くボールを投げてみせる。引き分けになった決勝の15回2死、173球目、175球目に147キロを出したのが顕著な例だ。オールドファンの多さでもともと早実寄りだったスタンドが、これで完全に斎藤のものになった。そしてカウント2−3から最後の球を投げるときには、手拍子と「斎藤コール」で甲子園が揺れたのではないかと感じるほど。1998年、横浜高の松坂大輔(現西武)が決勝で無安打無得点を達成したときに匹敵する大声援に、普段は相手に驚異を与える駒大苫小牧高ブラスバンドの音色も完全にかき消されてしまった。
 3年連続の決勝となる駒大苫小牧高は一昨年は北海道勢初優勝、昨年は57年ぶりの連覇がかかり、決勝は完全に「ホーム」での戦いだった。だが、今年は早実の三塁側からチケットは売れ、最後に残ったのが一塁アルプス席。3年目で初めて「アウェー」での戦いを余儀なくされた。その原因を作ったのは、まぎれもなく斎藤だった。

 西東京大会準々決勝から3試合連続初回に失点していたが、甲子園では全7試合とも初回はゼロ。エンジンのかかりが遅いため、試合前のブルペンでの球数を増やした結果だった。西東京大会決勝で三塁に悪送球したバント守備も、甲子園では修正。福井商高戦では投手前バントを好ダッシュで併殺にしてみせた。一度犯したミスは二度と繰り返さない、簡単なようで難しいことをいとも簡単にやってのけた。内角を突くコントロールと度胸、死球になっても平気で内角に投げ続ける図太さ、力を入れて投げる場面、スタミナ温存のために抜く場面の見極め……。挙げていけばきりがないほど長所ばかりが目立った。

 駒大苫小牧高・田中将大、大阪桐蔭高・中田翔ら“怪物”といわれる難敵をなぎ倒した斎藤。彼こそが難攻不落、この夏一番の“怪物”だった。

<了>

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「タフ」=早実のエース 高校野球ライターの予選観戦記第5回(2006.080.01)

■田尻賢誉/Masataka Tajiri

 1975年神戸市生まれ。小学校6年から中学2年までを札幌で過ごす。学習院大学卒業後、ラジオ日本勤務を経て独立。スポーツライターとして高校野球、プロ野球、メジャーリーグなど幅広い取材、執筆活動を行っている。著書に木内幸男氏(前常総学院監督)との共著『木内語録』(二見書房)や『大旗は海峡を越えた』(日刊スポーツ出版社)がある。『スポルティーバ』(集英社)、『スポーツ・ヤア』(角川書店)、『ホームラン』(日本スポーツ出版社)、『輝け甲子園の星』(日刊スポーツ出版社)、『ベースボールクリニック』(ベースボール・マガジン社)、『スラッガー』(日本スポーツ企画出版社)などに寄稿している。



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